谷崎潤一郎著『文章読本』

父が脳梗塞で入退院した
視神経に障害が残ったので リハビリの意味で字を書くことなどを
試みてゐるが 何をどう書かせるかに頭を悩ませてゐる
若い頃謡曲をやってゐたことを思ひ出し 引越しのときにも捨てず
に残しておいた謡曲の本の束を開いて その間に挟まってゐた
谷崎潤一郎著『文章読本』を見つけた
これぞ筆者を尺八に導いた元の元である
父の蔵書の中でこれを見つけたのは中学時代であった
本好き少年であったから 興味深く読んだ

〇文体について
ニ 兵語体・・・・の一節
此の云ひ方は、軍隊に於いて兵士が上官に物を云ふ時に用ひられ
てをり、儀式ばった感じもしないではありませんが、礼儀深い、慇
懃な心地が籠ってをります。ですから講義体よりも優しみや親しみ
がありますので、それ程広く行き渡ってはをりませんけれども、な
ほ相当に実用化されてをりまして、中里介山氏の「大菩薩峠」、そ
れから現に私の此の読本の文体などがさうであります。

この部分が強く印象に残ったのであった
そして高校二年の夏学校の図書室で『大菩薩峠』を見つけ 一気に
読み進めることになる
中でも「鈴慕の巻」には生涯の楔が打ち込まれてゐたのである